1. 男性ホルモンの 副作用 それとも 副効用 ?

 
私が医師として働き始めたのは昭和 47 年からですが、当時先輩の医師から更年期の患者によく効く注射があるということを聞かされていました。その効果はかなり強力で、一本の注射によってそれまでの症状が劇的に改善されるので、患者さんの娘さんから「母の様子がルンルンすぎておかしい」と心配の電話が掛かってきました。また効果が切れてくると女性の性的な活力が目に見えて減少してくるので、「病院でまた注射をしてもらうよう、主人に言われて来ました」という患者さんもありました。新米の産婦人科医には驚きの連続だったことをよく覚えています。

日本では更年期障害治療に女性ホルモンが使われ出したのは昭和 30 年頃ですが、そのころに発売されたこの注射剤は、女性ホルモンであるエストロゲンの副作用を緩和する目的で、当時脚光を浴びていた男性ホルモンのテストステロンを添加したものです。

ところで、この注射の効能書には副作用の一つとして「性欲の亢進と多幸感の出現」という記載があります。そのことは先ほど述べたように、テストステロンには特有の薬理学的効果があるということをはからずも証明しているのですが、当時は女性にとって好ましくない副作用としてしか評価されなかったのです。これらの男性ホルモン特有の薬理作用は、本当に更年期の女性にとって好ましくない副作用なのでしょうか。